水口商店と担ぎ屋
担ぎ屋とは、漁港で漁師や仲買人から魚を買いつけ、料理屋に届ける役割を受け持つ仕事。
古くは、魚を竹で編んだ籠にブリキの缶を入れ、海水がこぼれないように「担いで」料亭に行商していたことが、その名の由来と言われています。
水口貴士は、「水口商店」の3代目として淡路や明石の鯛をはじめとする瀬戸内海の魚を365日、京都をはじめ、時には東京にも届けています。早朝1時、淡路島北端の明石海峡に面する岩屋を出て明石、神戸、大阪など各地を転々とし、瀬戸内海の魚介を買い付けます。そして、仕入れされた魚はその日のうちに水槽付きのトラックで京都の作業場に運び、適正な施しを行い、「旨み」、「食感」、「香り」を最高の状態にして、京都の老舗料亭に届けています。良質な魚に適正な施しをすることで他にはない上質な魚を京都だけでなく全国の料亭にも届けています。
個々の鯛の質を見極め鯛の “うま味” をつくりだす
「活け越し」と「活〆」
「活け越し」とは、魚が漁や競り、輸送で蓄積された疲労、ストレスを軽減させるためのものである。
具体的には、魚を生きた状態で置いてから出荷する。言葉にすると簡単に聞こえるが、「活け越し」は、魚一匹づつの個体差(肥えている、痩せているなど)や漁法(五智網、定置網、刺網、底引きなど)、季節、各港における競りのやり方、漁師さん一人一人の魚に対する扱いなどによっても活け越しの時間が変わってくる。この「活け越し」が適切に行われているかを見極めることは非常に難しく365日鯛を触ることで得られる長年の経験と勘が必要である。
活け越しをする目的は、全ての生物のエネルギー源であるアデノシン三リン酸(ATP)を回復させるためである。ATPが分解されてアデノシン二リン酸(ADP)になり、さらにアデノシン一リン酸(AMP)から“うま味成分”であるイノシン酸に代わる。ATPが多ければ多いほどATPから生成される“うま味成分”であるイノシン酸に変換される絶対量が多くなるため活け越しは重要な工程になる。しかし、単純に活け越しと言ってもその時間が重要である。短すぎるとATPが回復しきれず、長すぎると逆に回復したATPを消費してしまうためである。 日本一の鯛をつくりだすために水口商店では厳選した鯛の質を落とさぬよう作業場の水槽は、毎日、瀬戸内海の海水を運び入れ、温度管理を徹底することで鯛に余計な負荷がかからないよう、環境面にも配慮し、活け越しを行っています。
そして、「活〆」も重要な工程である。活け越しをして、疲労やストレスが抜けた適切なタイミングで、魚を暴れさすことなく一撃で行う。これにも熟練の技術が必要だ。活〆は他の魚屋も行っているが、活け越しのタイミングや血抜き方法、温度管理など、作業のディテールを徹底し、魚を1匹づつ丁寧に扱っているところに、他社には真似できない水口商店の強みがある。
水口商店が誇る
日本一の鯛
「見る」「触る」「嗅ぐ」。五感を駆使した「目利き」によって選ばれた水口商店の鯛は “日本一の鯛” と言われている。
京都の名だたる料亭や割烹に認めていただいた味であり、現在も365日休みなく鯛を触っているからこそ、鯛を選び、届ける技術は、途絶えることなく更新し続けている。
関西の食文化は〆の白身魚をお刺身で頂くことは好まれない。食感に魚の活け感を残し、さらにお客様の口に入る瞬間に、うま味が最高潮になるよう逆算して届けている。
アミノ酸の一種であるグルタミン酸は鯛に多く含まれている。適切なタイミングで活け越しされた鯛を活〆することでうま味成分であるグルタミン酸とイノシン酸が掛け合わさり、うま味の相乗効果が発揮され、その味は初めて “極上” となる。
極上の味は、小さな心がけの積み重ねから生まれてくる。作業場の水槽は、毎日、瀬戸内海の海水を運び入れ清潔にすること。一匹一匹、鯛の状態にあわせて処理すること。お客様の元に届くまで、全ての工程において温度管理を徹底すること。そうした細かいことをきちんと行ってはじめて「日本一の鯛」を届けることができるのである。 お客様である一流の料亭や割烹に、誰もが認めるクオリティの鯛を届け続けること。 「日本一」の称号をいただいた我々の使命だと感じている。